この街はもう百年は昔に建てられた巨大な建築物に埋め尽くされていた。
どれもまったく機能していないが、そこには人間が住んでいる。
街は有毒ガスと放射線に満ちていてとても生身では歩けないような状態なので、多くの人間は地下都市に避難していた。
しかし、地下都市は全ての人間を収容することはなかった。できないわけではなかったはずだが、それをさせない人間がいたのだ。
かつて地下都市を管理していた霧島という男がいた。彼は元々極端な人体改造推進派であった。自身も高度な人体改造を受けており、その体はもう百五十年以上稼動している。
霧島は人間が地下都市に移住する際、身体検査を行い、改造率が四十パーセント以下の人間を移住拒否した。
霧島は改造人間軍を従え、地下都市を完全に支配していた。政府は完全にその機能を霧島によって奪われ、いつしか地表には人体改造のできる医師はいなくなり、地下都市と地表は完全に分離されてしまったのだ。
地表に残された人間はマスクをして、特殊な防護服を身に着けていないと、毒に犯されて五分と生きていられない。防護服があったとしても、四十歳以上生きていられる人間は稀であった。
地表に残された人間たちは地下都市に移住する権利を求め反政府組織“ビッググラウンド”を組織。地表の人々は戦い続けていた。
巨大なドーム型の施設にガスマスクをした男が入っていった。
そのドームはガスマスクをしていなくても生きていられる数少ない施設であった。男はガスマスクを外して、深呼吸した。
その男は厳格な顔つきで、頬に長い傷があった。髪は角刈りにしていて、髭をぼうぼうに生やしている。
ドームの中には数百人の人間と植物でいっぱいだった。
この施設の植物はドームの光を受けて育つ特殊なもので、この植物によって空気が汚染されずに人間が住んでいられるのだ。
男が施設に入ってくるのを見ると、少年が一人走ってきた。
「どうした」
男は慌てた様子の少年に訊いた。
「人だよ。外に倒れていたんだ」
「外に?」
「そうだよ。マスクをしていなかったんだ」
男は驚いた。
「そいつは生きているのか?」
「それが生きてるんだよ」
少年は両手を広げて、興奮した様子で説明していた。
しかし、男は血相を変えて少年の肩をつかんだ。
「そいつは改造人間だっ。どこにいる?早く始末しないと大変な事になるぞ」
少年はぶんぶんと大きく首を横に振った。
「違うんだよ。改造人間じゃない。生身の人間だったんだよ。ちゃんと調べたよ」
「そんな……馬鹿な。とにかく、案内してくれ」
少年はうなずくと、大勢の人の中を走っていった。男は見失わないようにそれについて走る。
このドームの中は壁側がいくつも区切られていて、それぞれに部屋がある。その中央には配給管があり、街から拾ってきた食料や生活用品の交換場にもなっていた。
交換場には改造医師が地表にいる間に人体改造できなかったものや体が改造手術に耐えられない老人や子供などが集まっていた。国籍などは何の意味も無く、昔の職業などなんの権威にもならない。今日生きているのが彼らの自慢で明日生きることが彼ら全ての目標なのだ。
少年は中央の交換場を避けながら正面奥の居住区Aに向かって走っていった。
居住区Aは縦十層、一層ごとに二十の部屋がある。そして一番上の一層は食料庫や医務室ということになっている。
少年は古びた梯子を一番上まで上り、A10と書かれた扉を開ける。男が少し送れて上ってくると、すぐ側をガスマスクをつけた数人の子供達が笑いながら走りぬけていった。
「あんまり暴れるなよ」
と男が言うと元気のいい返事が帰ってきた。しかし、子供たちはそれでも走っていった。
男は子供達を見送るとA10の扉を開いて中に入った。
部屋の中には小太りの眼鏡をかけた白衣の女が椅子に座って机に向かっていた。白衣の女は男が入ってきたのに気がついて振り返った。
「あら久しぶりね。あの子が何度も見舞いに来るから私はなかなか仮眠も取れないのよ」
部屋の隅にあるカーテンで仕切られたベッドに子供の影が映っていた。
「それで、そいつは本当に生身の人間なのか」
男はベッドのほうを見ながら訊いた。
「ええ、でも……」
白衣の女はいいにくそうに言葉を切った。その様子を見て男はベッドに歩み寄って白衣の女のほうを見てから「顔を拝ませてもらう」と断り、ベッドのカーテンを引いた。
少年がなにやら楽しそうにベッドで寝ている人物を眺めていた。男はその隣に並んだ。
ベッドで寝ているのは青年だった。
その人物の顔を見た途端、男は唖然としてしまった。少年は、口を半開きにして固まってしまった男を見てきょとんとしていた。
「……まさか、そんなばかな」男は呟いた。
あとから続いて白衣の女が入って言った。
「さっき写真と照合したけど、あの男に瓜二つだったわ。でも、あの男のはずはない……」
その青年は地下都市の支配者、改造人間の王、霧島そっくりだった。
「そんなはずはない。奴は改造人間だ。それもほぼ百パーセントの改造率のはずだ」
男は確認するように言った。
「ええ。間違いなくこの人は生身よ。霧島ではないわ。でも一つだけ思い当たることが……」
白衣の女が言いかけた時、唐突にぱちっと青年の目が開いた。
青年はぎょろぎょろと眼球を動かして辺りを見回した。
少年も厳格な顔の男も小太りの白衣を着た女も驚いて言葉を失っていた。
「お前たちはビッググラウンドか」
青年は訊いた。
「そうだよ」
誰よりも早く少年が答えた。
「そうか……俺は助かったのか」
青年は天井を見上げて呟いた。
男が腰の拳銃を抜いた。
「それはお前しだいだ」
男はその拳銃を青年の額につきつけた。
「俺は改造人間ではない」
青年は拳銃を突きつけられてもまったくの無表情で言った。
「それはわかってる。ではお前は何者だ。なぜ外にいたのに生きていられた」
「霧島とそっくりなのはなぜ。親族か、それともクローン」
二人は訊いた。
青年はしばらく無言で突きつけられた拳銃を見つめていた。答えを待って二人は黙っていた。しばらく沈黙が続いた。
「この人は敵じゃないよ」
少年が大きな声を出した。
「なぜそう言える。得体の知れない奴だ」
男がそう言うと少年は黙って俯いてしまった。
その時、男が起き上がった。ベッドから上半身を起こして、そして男の顔を見て答えた。
「そうだ。俺は敵じゃない。俺は人造人間だ」
「人造人間っ」
男と白衣の女は同時に声をあげた。
「霧島の造った人造人間。噂には聞いていたけど、まさか本当に実在するなんて」
白衣の女は眼鏡を少し押し上げて呟いた。
それを聞いて男は声を大きくして青年に問い詰めた。
「じゃあ霧島に造られたお前がなぜ、地表に現れた。俺達を殲滅するつもりなのか」
「ちがう。俺は霧島から逃げてきたんだ」
「逃げる?……ちょっと話がめんどくさくなってきたわ。詳しく話してもらうほうがいいかもしれないわね」
“霧島の子”という人造人間製造プロジェクトはまだ霧島が地表にもしばしば現れていた時から存在していた。
霧島は地表にある独自の研究施設で人造人間の試作をしていて、やがて、地下都市が完成すると設備を地下に移して研究を続けた。
長い研究の結果、二十体の試作体が完成した。しかし、その二十体のうち十五体が厳しいテストにより死んでしまった。
試験体十三番であった青年は次々と倒れてゆく仲間を見て、恐怖や怒りという感情を覚えたのだ。このことに気がついた霧島は十三番の破棄を命じた。霧島の欲しかったのは感情のある人造人間ではなかったようだ。
「俺はそのことを知って研究施設から脱出した。幸い、俺は感情こそ覚えてしまったものの、能力的には霧島の望む性能にかなり近かったらしいからなんとか脱出できたんだ」
青年は自分にかかっているシーツをめくり、赤い血のにじんだ包帯が巻かれた腹があらわになった。そして青年は巻かれている包帯をはぎとった。
包帯の下は傷一つ無い白い肌だった。
「おい、傷はどんな風だったんだ」
男は白い肌をまじまじと見ながら、同じくその肌に見入っている白衣の女に訊いた。
「銃弾が三発、貫通していた。つい二時間前まであんなに出血していたのに」
白衣の女は信じられないと言う風に言った。
「信用できないな。お前が人造人間なのはわかったが、お前が敵でない証拠がない」男は思わず降ろしていた拳銃を再び構えた。
「だから、敵じゃないって」
少年は必死に青年をかばおうとして、男の構えた銃口の前に立った。男は困ったように少年を見て銃口を下げて、白衣の女をちらりと見た。白衣の女は肩をすくめて首を横に振った。
「しかしだな……」
男がなんとか少年を諭そうとしたとき、青年がこう提案した。
「そうだな、俺が地下都市の入り口を一つ潰して来てやろう」
「はあ?」
男は自分の聞いたことが信じられなかったのかおもわず聞き返してしまった。
「入り口の基地を潰して来よう」
青年は言い直した。
「ばかな。入り口の監査基地には霧島の改造人間軍が駐留しているんだぞ」
「俺の性能なら十分だ。心配なら見に来るといい。裏切りが怖いなら体に爆弾を仕掛けても構わないぞ」
「それでも……」
何か反論しようとした男を無視して、そうだ、と青年は思い出したように白衣の女を見て訊いた。
「俺の着ていた戦闘服はどうした?」
「あれならそこに」
白衣の女はカーテンをめくって、机の上にたたまれた黒の戦闘服を指差した。
「行くなら一応装甲服もあるけど、あれでいいの?」
「俺の戦闘服はほとんど銃弾を通さない」
「三発貫通してたわ」
「特殊な対物狙撃銃に撃たれた。あれではさすがに無傷とはいかないみたいだな」
男と白衣の女は驚いて声も出なかった。改造人間軍の使っている対物狙撃銃に撃たれたのであれば人間など跡形も残らないはずなのだ。
「お前を殺そうとするなら敵の基地がまるごと吹っ飛ぶような爆薬がいりそうだな」
男はふっと笑って冗談じみた口調で言った。その笑顔は微妙に引きつっていた。
「ならいっそのこと爆弾になってきてやろうか」
それに返すように青年は言う。しかし、その表情は笑っていなかった。冗談かどうかもわからなかった。
青年はベッドからおりて立ち上がった。背丈は高く、男と頭を並べている。
「ここから一番近い地下都市の入り口は?」
青年は訊いた。
「南にずっと行ったらゲート7050が。監査基地の真ん中に入り口がある」
男が答えた。
「7050か、丁度いい。運が良ければ霧島の戦闘犬がいる」
「戦闘犬?」
聞き慣れない言葉のようで白衣の女は首をかしげた。
「霧島に絶対忠誠を誓った改造人間軍の将だ。霧島直属スタッフの高度な改造を受けている」青年は答えた。
「聞いた事がある。霧島の四人の忠臣。その力は改造人間百人が束になっても敵わない性能だとか」
「たいしたことはない。ただの犬だ」
そう言うと青年は背中を向けて自分の戦闘服に着替え始めた。
白衣の女が訊いた。
「あなたの目的はなんなの?」
青年は手を休めることなく、背を向けたまま答えた。
「とりあえずは霧島への復讐」
青年は慣れた手つきで手早く戦闘服を着込んでゆき、一分もしないうちに装着してしまった。黒の戦闘服はところどころに男たちには用途のわからない装備がついていた。装甲らしいものはほとんどついておらず、腹の辺りには三つ穴が開いていた。
「だから霧島を殺すためにお前たちに協力しようということだ」
「霧島を倒したらどうする」
「さあ……考えていない」
青年は遠くを見ながら言った。考えているのか少し立ち止まっていたが、すぐに頭を振って扉に歩み寄り、ノブに手を掛けた。
「ちょっとまって」
扉を開けようとした青年を少年が止めた。
「出口まで送っていくよ。普通に歩いてたらなかなか出られないよ」
そのまま少年がドアを開けて部屋を出て行き、それに続いて青年が部屋を出た。
「いいの?」
二人が出て行ってから白衣の女は男に訊いた。男は一つため息をついてから、答えた。
「あいつが本気になればこんなところ一瞬で潰されるんだろう。今は信じるしかないようだな」
「どうせあなたも行くんでしょう?」
「ああ、とりあえずはな」
そうして男は部屋を出た。
一番上から眺めると、ドーム内はとても壮大であった。ところどころに植物の蔓と葉が伸びていた。交換場では人々が中央でひしめいて、その外側では無数に部屋が割られている。人によって生活リズムがばらばらなので、今頃起きて部屋から出てくる人もいたし、眠そうにあくびをしながら部屋に入っていくものもいた。
これが地表にいる人間の大半であった。
もし、あの青年が裏切り、この場所を攻撃されたら地表にいる人間はほぼ殲滅されてしまうのである。
男は自分の装甲服と銃を取りに、少し遠い自室に向かった。
「ねえ、兄ちゃんは名前なんていうの」
少年は交換場の人ごみを避けながら尋ねた。
「名前か。以前はずっと十三番とよばれていた」
少年の歩いた場所を正確にたどりながら青年は答えた。
「その名前、気に入ってるの?」
「いや、あまり。それに俺はもう処分された。もう十三番ではない」
「じゃあ僕が名前をつけてあげようか」
「それはありがたいな。なんという名前だ」
少年は立ち止まって振り返った。そして、得意げな笑顔で言った。
「兄ちゃんの名前は――」
そこは比較的小さな基地だった。
この基地の門に二十年は誰も訪れてはいなかった。ただその基地の中央にある巨大なエレベーターからは物資や人員が時折行き来していた。
改造人間軍は毎日機械的に訓練を続けるが、だれもその訓練に意義があるとは思っていなかった。それはビッググラウンドが組織されても同じ事だった。地表の改造していない人間に負けるはずが無いと思っていた。
警報が基地に響き渡った。
改造人間軍は訓練通りの配置について、二時間は後に来るのであろう敵に備えていた。
しかし、敵が来たのはそのわずか二十分後だった。
しかもその敵は完璧に丸腰で、走ってきた。さらにその速度は明らかに航空機なみだったのだ。
砲撃の嵐が敵を襲う。
弾が地面に当たるたび巨大な土煙があがり、その中から黒い影が飛び出してくる。敵の速度はまったく衰えず、砲撃は一発も当たらなかった。
あっという間に敵は基地に接近して、絶え間ない機銃の弾幕をはじき返しながらつき進んだ。
敵は大きく跳躍をして、基地の正面門にとび蹴りをくらわせた。門は蹴られた点を中心に砕け、がらがらと崩れた。
門を砕いて着地した瞬間、敵に四方から銃撃が浴びせられる。が、銃弾は一発も敵に傷を負わせることはなかった。
敵はすぐに動き出して、銃撃を浴びせる改造人間兵を一人捕まえた。両手でがっしりと肩を掴んだかと思えば改造された兵士の体を左右に引き裂いた。
そして血の吹き出した体を別の兵士に投げつけ、血と銃弾の舞う中でさらに兵士を倒していく。銃弾の効かない体と疾風のような俊足、そして改造人間の体を紙のように砕く怪力に改造人間兵はまったく歯が立たない。
入り口で敵を迎撃しようとした兵士は一分と経たないうちに全員見るも無残な姿に変わっていた。増援の兵士はこの惨状を目にすると、例外なく恐怖し、奇声を上げながら銃を乱射するか、そうでなければ必死に逃げ出した。
いままでは誰もが改造した体を無敵だと思っていた。しかし、今、黒き敵に対峙した兵士は皆思った。自分の体など本当は赤子以下なのではないかと。まさに赤子の手をひねるがごとく、兵士達は敵に惨殺されたのだ。
やがて、兵士の増援が途切れたころ、敵は施設内に入っていった。そしてその数秒後、施設の一棟が倒壊した。
どんどん基地が崩壊していった。位の高い士官などはそれを知ると急いで地下施設に逃げ込んだ。
敵が来てからわずか十分。基地はたった一人の敵によって巨大な竜巻に襲われたように瓦礫の山と化していた。
誰一人外に逃げることは出来ずに、基地に残っていた兵士は全員殺された。ただ一人を除いて。
地下都市への入り口である巨大なエレベーターの上に二人はたたずんでいた。
「……頭部装甲を解除」
黒のヘルメットが分解されて戦闘服の中にしまわれた。
青年は顔をさらして、軍服を着た煙草を咥えている大男を睨んだ。大男は霧島の忠臣の一人であった。他の仕官と一緒に地下へは逃げなかったようだ。
大男は基地が完全に破壊されて、それをなした血まみれの青年を見てもまったく動じなかった。
「お前、13番だな。霧島から見つけたら殺せって言われたぞ」
「……犬が。殺れると思っているのか」
大男の飄々とした口調に対し、青年は敵意をむき出しにした。
「ふっ。どうせ逃がしちゃくれないんだろ。俺だってただの改造人間じゃないんだ。簡単にはやられねえぞ」
大男は笑みを浮かべて煙草を吐き捨て言った。
「お前、霧島にそっくりだ」
「あたりまえだ。そう造られた」
青年は大男をにらみつけた。青年は人造人間の少ない感情の一部を現した。
「……なあ、知ってるか。霧島は子供の頃、病気で体が弱かったそうだ。霧島があと十年も生きられないって聞いて霧島の親はすぐに霧島の体を改造した。その後、長い手術と長いリハビリを終えた霧島がやったことが何だと思う?」
青年は答えない。大男は気にしていない様子で続けた。
「親を殺したんだよ。完璧に証拠を残さず、自分は被害者だって顔をしてな。それから霧島は自分から体をどんどん改造していったよ。親の財産で政治界に入って、自分が上にのぼるために裏で何人もの人間を殺してきたそうだ。そう、まさに血にまみれた悪魔だ」
大男は血にまみれた青年の体をつま先から頭まで大げさに見渡した。
「…………もういいか」
青年が訊くと大男は笑みを浮かべたまま手を突き出して人差し指で挑発した。
「こいよ13番。霧島の劣化コピーは排除してやる」
青年が動いた。
一瞬後には拳を大男の顔面めがけて突き出していた。大男は上体を大きくそらしてその拳をかわす。大男はすぐに青年の腕を掴んで、その体を大きく振って投げ飛ばした。
そして空中に舞った青年の体に向けて右手を突き出す。すると大男の右手の指は五本とも第一関節から開いた。
右手の五本の指が火を噴く。そこから五つの弾丸が青年めがけて飛んでゆく。
三発の弾丸は青年の戦闘服に弾かれた。しかし、二発の弾丸は戦闘服に開いた穴から青年の体にめり込んでいった。
青年の体は地面に叩きつけられる。
大男の左手から剣が伸びて、青年に向かって走った。青年は跳ね起きると振り下ろされた剣を右腕で受けた。
「レイブレード」
青年が呟くと戦闘服の右腕から剣が伸びて、大男の剣を振り払った。
「やるな十三番っ」
大男は右手で至近距離の青年の頭を狙って撃った。
青年はかがんで銃弾をかわす。頭のすぐ上を銃弾がかすめた。青年は剣を斬り上げ、大男の右腕を肘から切り落とす。
大男の顔が苦痛に歪む。
「俺は、十三番じゃない」
青年が剣を突き出す。大男は左手の剣で受けるが、青年の剣は大男の剣を砕き、そのまま大男の体を貫いた。
「ぐうっ」
大男はうめき声をあげる。
「俺は――――」
青年は大男を貫いた剣を一気に斬り上げて、大男の頭まで裂いた。大量の血と機械のパーツが飛び散る。
「俺の名はザンガーだっ」
男がガスマスクと装甲服を装着してゲート7050に到着したころには、そこにあったはずの基地は全壊して、大量の改造人間の死体が転がっていた。
そこにはただ一人、血まみれの青年が立っていた。
「なにが、あったんだ」
男は呆然と立ちつくしていた。
ゆっくり青年が振り返る。
「遅かったな。もう片がついた」
「そんな、一人でここまでやったのか」
「残念だが入り口は完全に閉まってる。ここから進入するのは無理そうだ」
そういうと青年は背を向けて歩き始めた。
「どこに行くんだ」男が呼び止める。
「別の基地を潰しに行く」
「おい、ちょっと待て」
「これ以上俺に関わるな」
青年は振り返らずに去ってゆく、男は走って青年に追いついて肩を掴んだ。
「だから待て。人造人間でも補給は必要じゃないのか?」
青年は立ち止まって振り返ると、ガスマスクをつけた男は親指で後ろを指した。
「お前にはビッググラウンドの力になってもらう。そのかわり俺たちはお前に補給を提供する」
背年はしばらく立ち止まって考えているようだったが、やがて、「わかった」とうなずいた。
すると男は右手を差し出した。しかし、青年は不思議そうに差し出された手を見ていた。
「なんだ?」
青年は手を見ながら訊いた。
「握手だよ。知らないのか?手を握ればいいんだよ、協力の証だ」
男が説明すると、青年はぎこちなく差し出された手を握った。男は青年の手を強く握って少し振って言った。
「よろしくな。――――ザンガー」
「ああ、よろしくたのむ」
二人は荒廃した地表都市を歩いて帰った。
装甲服とガスマスクをつけている男に対して青年は有毒ガスや放射線をものともしないで顔をさらしていた。
この国は地表にいるあらゆる動植物が絶滅しようとしていた。
かつて人間が支配していた街の建物はほとんどの窓ガラスが割れて、崩れているものもあった。
地表はすでに死んでいた。
地下にいる人間たちは霧島の力に従い、進んで自身の体を改造してなんとしても生き延びようとしている。すでに死んでしまった地表は彼らにとって故郷ではなかった。
地表にいる人間たちは霧島の力に反発してなんとしても生き延びようとしている。今でもまだ地表を故郷として。
そして、そんな人々とは別の想いから、一人の人造人間が今立ち上がった。
アトガキ
一応ヒーローもの。
色々考えたんだけど設定に無理があるかな。