眼鏡をかけた青年は歩きながら静かに話し始めた。
そこは広い寺院のようだった。そして、そこには100を超える人間が座っている。その中には生後5ヶ月の赤ん坊もいれば、90を超える老人もいた。その光景は集会というより儀式に近かった。
気の弱そうな青年が静かに手を上げた。
「なんだい?」
気の弱そうな青年は立ち上がって言った。
「この世界というのは・・・全宇宙を含めた“世界”のことですか?それとも人間の構成する“社会”のことですか?」
しばらく間をおいて、
「ふむ・・・おそらく“社会”のほうが合っているね」
と眼鏡の青年は言った。
気の弱そうな青年が座ったのを確認して眼鏡の青年が話しを続けた。
「おそらく、誰もが何らかの不満を抱えているのだと思う。では、」
眼鏡の青年は立ち止まって皆の方を見た。
「この世界には何が足りないのだろう?」
一拍置いて、3人が手を上げた。眼鏡の青年はその中から一人の妊婦を指差した。妊婦は隣の男の手を借りて立ち上がった。
「それは“生命”です」
と妊婦は言った。
「しかし、それでは何故人間は無駄に生命を散らすのだ?」
と眼鏡の青年が返した。しばらく沈黙が続く。
そして、さっきの3人のうちの一人が手を上げた。その少女が言った。
「この世界に必要なのは“愛”ではないのでしょうか?」
「では、何故愛を偽る者がいるのだ?」
眼鏡の青年が同じ口調で言った。
今度は間を置かず老人が手を上げた。
「それは人の“世界”に対する想いが違うからではないのでは?」
眼鏡の青年は少し考える様な仕草をしてから、こう言った。
「なるほど、それはそうだな。なら質問を変えよう」
眼鏡の青年は再び歩き出した。
「では、我々が世界のために出来ることはなんなのだろう?」
長い間があいた。誰もが真剣な表情で考えた。それは、もはや単なる地域の集会ではなかった。
そうして、答えを出したのは眼鏡の青年だった。
「私は、我々がこの世界のために出来ることは、“世界の破壊”だと思うんだ」
その言葉に驚く人もいれば、うなずく人もいた。しばらく寺院内は話し声でいっぱいになった。
そして話し声が静まった頃、眼鏡の青年は言った。
「それができるのは私たちだけだ。私は悪と罵られようが、世界の救済者となる。賛成しなくてもいい、逃げたっていい、ついてくる者は力を貸してくれ!」
その瞬間全員が立ち上がった。老人も子供も女も男も気持ちがつながった。この集団はある意味“理想的な世界”のように見えた。
World 〜END〜