教室には一つ穴が開いていた。
少女はその穴を心配そうに見つめていた。しかし教室は穴があろうとなかろうと、いつも通り変わらずに日常を送り続けていた。
それもそのはず。
その唯一つ開いた穴は人と接することを得手としない人見知りの激しい少年だからだ。教室での印象も薄く、居ようが居まいがたいていの人には関係のないことである。
しかし、少女はその穴を気にしていた。
この少年と少女の間には何もない。ほとんど話したことすらないはずである。それなら何を気にすることがあるのだろう。人との関係を持ちたがらない地味な少年がただ一日欠席しただけだというのに。
少女は学校が終わると、すぐに下校はしなかった。少女には確認すべきことがあったからだ。
空は雨が降りそうな嫌な曇り空だった。世界を灰色に変えてしまう陰険な曇り空。
この学校の体育館の裏。フェンスと校舎に挟まれた薄暗いところだ。フェンスの向こうには鬱蒼と生い茂る森が広がっている。普段はこんなところにはタバコを吸いに来る不良少年すら訪れない。
この少女は昨日もここを訪れた。
どうやら体育の時間にハンカチをどこかに落としてしまったらしく、探し回っていた。すると体育館の裏のほうで話し声が聞こえた。こっそり見に行ってみると、そこにいたのはクラスメイトの少年と背の高い奇妙な狐の面をかぶった男だった。
少女はそのとき狐の面をかぶった男と目が合ったような気がした。その奇怪な面からただならぬ気配を感じ取った少女は一目散に逃げ出したのである。
そしてその後日。そこに居た少年は学校を休んだ。
少女はそのときの事が頭にこべりついて離れなかったのだ。その不安からもう一度あの場所を見に行こうと、おもいたったのである。何もない事がわかると安心するかもしれない。
少女は体育館の角で立ち止まった。
もしまたあの男がいたらどうしようか。また走って逃げようか。でも逃げてどうなるのか、今度こそつかまってしまうかもしれない。
いや、悪い人だと決まったわけではない。劇の練習とか。
しかし、この学校に演劇部はないし学園祭には季節はずれだった。
一陣の風が少女のそばを駆け抜けた。ぞっとするほど速い風であった。そしてその気配は少女を不安にさせるには十分すぎた。
少女はその場に崩れ落ちた。腕や膝がガクガク震えて体を支えるので精一杯だった。
「どうかしたか?」
少女の背後で声が聞こえた。
少女は振り向くことができなかった。恐怖が体の芯まで染み渡って顔も動かせなかった。
「怖いか?恐れることはないだろう?お前はすでに私を見ているのだから」
凄まじい威圧感が一瞬消えた。
次の瞬間。目の前に狐が現れた。正確には狐の面だ。
少女の見開いた眼から涙がこぼれた。呼吸が乱れ始めた。声を上げようとするが、声にならず荒い息になって吐き出された。
「お前から来てくれるとは思わなかった。どうした?昨日の少年が気になったか?」
狐の面は笑っていた。その細長い目と口が笑っていた。
「あの少年は失敗作だ。未来に恐れをなして私を頼ったまではいいのだが、結局使い物にならなかった。強大な力に耐えることができなかった。ゆえに彼は死んだ。なあに、心を痛めることはない。所詮お前とは関係のない、無能な少年だ。あれは彼自身が望んだ結末なのだ」
少女の眼からさらに涙があふれ出した。
狐の声は鼓膜を震わすことなく、直接頭の中に響いてくるようだ。少女は自然とその言葉を頭の中で反芻していた。
「あんな失敗作のことより、お前の未来を教えてやろう。どうもお前は他人のことを優先する癖があるらしいな。お前は自分のために生きようとしない。お前は他人のために損をしてばかりだ。生涯自分自身のために生きられない。お前は永遠に後悔と悲しみの中で生きる羽目になりそうだな。しかしお前にもチャンスはある。その気になったらいつでも私を頼ってくれても良いぞ。私はお前のような人間を救うためにあるのだからな」
そういい残すと狐の面は消え去った。
するとさっきまでの恐怖がすっと消え去り、威圧から解き放たれた。
少女は糸の切れた人形のように、しばらくその場で膝をついて呆然としていた。
少女はそれから気の抜けたように日々を過ごしていた。
普段と同じ様子を振舞っているものの、ふと呆けたようにどこか遠くを見ているようで、周りの声が聞こえなくなる。
普段は成績優秀の秀才なのだが、ここ数日、授業も聞いているか聞いていないのかわからない状態で学期末テストでは珍しく平均点ぎりぎりの点数を取ってしまった。
流石に心配になってきた親や教師は何度も何かあったのかと訊いてみてはいるものの、本人は曖昧に言葉を濁し逃げようとするのだ。
しかし何かあったのは間違いないようなので、大人達は一刻も早くその原因を突き止めたかった。だから何気なく少女の友人などに訊いてはいるのだが、この友人達さえも何が原因であんなふうになってしまったのかわからないと言う。しかし、手がかりはあった。
少女が半ば放心状態になった時期が、クラスメイトのある少年が失踪した時期と重なるのだ。少年の失踪事件はクラスメイトには伝えてはいないのだが、元々休みがちであった社交性の殆ど無い少年のことはまったく気にならないらしく、誰も少年については訊いてこなかった。
もしこの少年の失踪と少女の放心状態が関係があるのだとしたら、そのことについて少女に追求しなくてはならない。
そこでクラス担任の教師は少し鎌をかけてみた。
少女が掃除当番を一人でこなしている時にさりげなく少年のことについて触れてみた。
「そういえば、あいつ最近来てないな」
独り言のように教師は言った。
たったこれだけの言葉でも、少女の動揺は明らかだった。まるで何かに怯えるように、掃除もそこそこに帰ってしまった。見るからに挙動不審だ。ただ単にクラスメイトを心配しているとも思えない。少女の表情からは恐怖がありありと感じられた。
これで少女があの少年の失踪についてなにか関係があるか、あるいは何か知っているということは確かなようだ。
教師は少女の親にも連絡をとろうかと考えたが、どうも乗り気ではなかった。このクラス担任の教師はあまり少女を追及したくなかった。この少女の成績不振を気に病んだ他の教師たちの手前もあるからこうして調べてはいるものの、この教師にとっては成績のことなどどうでもよかった。
ただ、このところ元気が無いのは心配であった。しかしそんなこと、もしかすると時間が経つにつれて自分で解決するかもしれないし、少年の失踪のこともプライベートなことで少年と何かあったのかもしれないし、あまり立ち入ったことは訊きたくはなかったのだ。
しかし教師という職業柄そういうわけにもいかない。
クラス担任はため息をつきながら、少女の親に電話をかけてみた。
『もしもし』
『えーと、私2年3組のクラス担任の者ですけど』
『ああ、娘がいつもお世話になって』
『いえいえ。今日はその娘さんのことで少し話があるんですけど』
『はあ、話といいますと?成績のことでしょうか』
『まあそれを含めていろいろと。……そちらに娘さんはいらっしゃいますか?』
『いえ、今は出掛けているようです』
教師はほっと胸をなでおろした。このやりとりを聴かれていたらそれだけで少女を不安にするかもしれない。できれば今そんな状態にしたくはなかった。
『それでは……まず、彼女のことで最近変わったことはありますか?』
『変わったことといえば、最近ぼーっとすることが多いですね。私も気にかけてはいるんですが、なかなか娘が話してくれないもので』
『何か心あたりは?』
『……いえ、わかりません』
教師は心の中で舌打ちをした。これであのことを訊かなければならない。
『そうですか…………これはまだクラスメイトには話していないことなのですが、最近クラスの男の子が行方不明になっているんです』
『……はあ』
『彼女はそのことについて何か知っているようなんです。そのことに心当たりは?』
『い、いえ……初めて訊きました。その男の子の行方不明とうちの娘が関係あるんですか?』
『確信ではありませんが、おそらく何か知っているものと思います。彼女が帰ってきたらそれとなく訊いてもらえませんか?』
『わかりました……娘を……これからもよろしくお願いします』
電話を切った教師は再びため息をついた。
これは解決するまで関わらなきゃならないのかな。
この教師が問題を重要視しようとしないのは、単に面倒というところもあるようだ。
家に電話がかかってきたとき、少女は学校にいた。
少女自身が望んでここへ来たわけではない。少女はいつの間にかここにいたのだ。
すでに生徒は全員帰宅していて、教室は暗闇につつまれひっそりとしていた。静寂に包まれた教室で少女の息遣いだけが聞こえる。
しかし、教室にいたのは少女だけではなかった。
暗闇に同調するような黒の学生服をきた少年だ。この学校の生徒ではない。それどころかこの近辺では見かけない制服だ。
彼は言った。
「あの男に会ったことがあるな」
少女の体はびくっと反応した。暗闇でもその表情に恐怖が浮かんでいるのがわかる。それはあの男に対する恐怖であり、この少年に対する恐怖であった。
この少年はあの男よりも凄まじい威圧感を持っていた。一言で相手を思うがままに動かせるのではないのかと思えるほどだ。
少女は乾いた唇をわずかに動かした。
空気を振るわせたそれは蚊の羽音よりも小さな、か細い声だった。少年はそれを聞き取ったのか続けて質問した。
「あの男に何か言われたか?」
「…………」
「そうか。お前はどうするつもりだ」
「…………」
「もし、お前があの男に従って、生きていた場合、俺がお前を殺す。わかったな」
「…………」
「あの男と同じだ。俺は“他人のため”なんかじゃ動きはしないがな」
そういい残すと少年は立ち去った。
再び暗闇に少女の息遣いだけが残った。
不思議なほど静かな静寂は少女の中で恐怖を育て、恐怖は少女を取り込み、少女を別のものへと変えていく。それが正しいことなのか、間違ったことなのかはわからなくて、少女が根本的に変わっていくのかといえばそうではない。
全ての考えは単純な言葉で解説ができるのであろう。問題を複雑にしてすり替えていくのはいつも他人だ。だから少女を変えるのは人間の認識の中だけであった。
彼女はただ恐怖に飲まれただけだというのに。
次の日。
授業が終わって騒がしい教室の中、少女は一人帰りの仕度をしていた。
少女に一人の女子高生が話しかけた。
「ごめん。今日掃除当番代わってくれない?私これから居残りでテストあるから勉強したいの」
普段なら笑顔で了承するところなのだが、今日の少女は違った。
相手を侮蔑するような冷たい目つきをして言った。
「なんで私があなたのために代わらなきゃならないの。私には関係無い」
それはまるでまったくの別人のような口調で、頼んだ女子高生は冗談かと思ったぐらいだ。しかし、少女は鞄を手にさっさと教室を出て行ってしまった。
そしてその後を追うように大量の書類を抱えた担任が教室を出た。
担任教師が早足に歩く少女の隣で話しかけた。
「代わってやらないのか?」
「どうして他人のために働かなくちゃいけないんですか?」
担任教師は目をパチクリさせた。
こんな冷たい目をした少女だったのだろうか。確かに最近おかしなところはたくさんあったが、その態度に変化は見られなかったからだ。昨日のうちに決定的な何かが少女にスイッチを入れたようだ。
「何か、用事があるのか?」
「別に、ありませんよ」
「じゃあ、代わってやってもいいじゃないか。なんなら先生も手伝うぞ」
「じゃあ、先生が代わってあげたらどうですか?」
少女は早足のスピードを上げた。
担任教師もそれについていこうとしたのだが、なぜか何も無いはずの廊下で躓いてバランスを崩してしまって、書類が廊下にばら撒かれてしまった。どうもこの教師には間抜けなところがあるらしい。
みじめにぶちまけてしまった書類を集めている間に少女は遠ざかっていく。普段なら手伝ってくれるところなのだが、今日はそうもいきそうにない。
書類を集めながらため息をついた。
すると駆け足でこちらに向かってくる足音がするではないか。
やはり少女は戻ってきたのだ。
さっきの冷たい言葉はどこへやら、少女は仕方が無いといわんばかりに駆けつけるなりせっせと書類を集めだした。
すばやく半分ほど集めると、また走って去っていってしまった。
結局担任教師には何の言葉もかける暇なんてなかった。
少女は迷ってしまったのだ。
その迷いが安堵に代わるか、取り返しのつかない絶望に代わるかなんて、教師はまったく考えていなかった。ただ、ちょっとは機嫌が戻ったのかなとぼんやりと考えるだけだった。
生徒が全員下校した後、少女は体育館裏に向かった。
もう辺りは大分暗くなってきて、体育館裏の狭い空間はほとんど真っ暗だった。少女がこれから踏み出そうとする道である。
「やはり戻ってきたか」
少女を凄まじい恐怖が襲った。いつの間にか狐の面がひざまついた少女を見下ていた。
狐の面は笑っている。
それは少女をあざ笑っているかのようでもあった。
「自分のためだけに生きる力が欲しいのだろう?私もお前がそれを手に入れることを望んでいる」
少女の目の前に黒い小さな玉が差し出された。
それは艶一つない暗黒のごとし黒い玉だ。それは異様に禍々しいものにみえた。この玉は暗闇の中にもかかわらず、浮き出ているようにはっきり見えるのだ。
「それを飲めばいい。ただそれだけでお前は力を手に入れることができよう」
もう少女の顔には恐怖は映っていなかった。
しかし、その目は何かを期待しているようにもみえない。ただ、少しの安堵があった。
少女は黒い玉を静かに口に運ぶ。
変化はすぐには現れなかった。
しかし、徐々に少女の息遣いが荒くなり、眼は見開かれていく。苦しそうに胸を押さえながら恨めしそうに狐の面を睨んでいた。
狐の面は笑っていた。
今度は声に出してはっきりと。低い声で高笑った。
少女の体はどんどん感覚が薄れていった。彼女には自分がどんな状況にあるのかわからないだろう。ただ低い笑い声が聞こえるだけだった。
もう何も見えなくて、ただ遠くに笑い声が聞こえるという状態まで感覚がなくなったとき、突然背中に鋭い痛みが走った。
少女の体は闇に包まれていた。
その中で少女は自分の中に潜む圧倒的な力を感じていた。意識が飛びそうなぐらい全身が痛いにもかかわらず、もう何でもできるような気がした。
この力があれば自分は誰の力も借りず、誰よりも強く、迷うことなく、自分のために生きることができる。
力に包まれながらさらに力を求めた。
まだまだこんなものじゃない。自分の中にもっと大きな力を取り込む。少女は力を求め、さらに大きな闇に包まれた。
しかし、成長はそこでとまった。
少女が闇から引き出されたのである。
いや、そこにいたものはすでに少女の姿をしていなかった。
全身が黒い鎧に包まれて、背中からは黒い骨のような物が飛び出していた。禍々しいその兜から生気は感じられなかった。
そして黒の鎧に包まれたものは少女だけではなかった。
少女を無理やり闇から引っぱり出した者。そいつも同じ姿をしていたのだ。
少女と違うのは背中から、悪魔のような巨大な翼が生えており、頭には鬼のごとき一本の角が生えている。
「遅かったか。成功してしまうとは」
「くっくっく……お前も実験体か?しかしせっかく成功したのに途中で止めてしまうのはよくないな」
角の生えた鎧は狐の面を睨みつけた。
「怒るなよ。私はみんなの為にやっているんだ。弱き人間に力を与えたることのどこがいけないんだ」
「俺はお前がどんな目的で、何を企んでいるのかなんてどうでもいい。……この力を使う人間は、殺すだけだ」
次の瞬間そこに狐の面はなかった。
ただ狐によく似た頭の、黒の鎧がそこに立っていた。
さらに一秒もしないうちに角の生えた鎧が狐の鎧を追い詰めていた。
拳を頭めがけて繰り出す。
しかしその瞬間にはすでに狐の頭はそこには存在せず、代わりに5メートルほど上空に浮いていた。角の生えた鎧は翼を一度羽ばたかせ、一瞬でそこに追いつき、さらに攻撃を繰り出す。
まるでコマ送りを見ているような戦いだった。一瞬のうちに二人の立ち位置がまったく別の場所に変わるのだ。
しかし、だんだんと狐の鎧が追い詰められていることがわかる。
角の生えた鎧が速すぎるのだ。反応が追いつかなくなってきている。
刹那、腕が一本宙に舞う。狐の鎧の腕だ。
狐の鎧が怯んだ。
そして、次の瞬間には狐の頭はそこに存在しなかった。
闇が頭と片腕をなくした鎧を包み込んだ。まるで闇に飲まれるようだ。傲慢にも闇を操った気でいた、愚かな者の最期だ。
少女が目を覚ましたとき、全身を駆け巡る力はすでに失われていた。
少女はひどく脱力した様子で白い天井を見つめていた。
「……ここは……?」
「保健室だ。もうすぐ教師が来る」
少女の問いに答えたのはいつか教室で話した少年であった。前と違って声に威圧感はまったくこもっていなかった。
「私は……どうなったの?なんだか、とてもすごい力が全身を満たして……」
「黙れ」
少年は一喝して少女の言葉を遮った。
「お前は成功したらしい。これからお前にはある場所に向かってもらう」
「どうして?どうして私があなたのために動かなきゃならないの?」
「俺のためじゃない」
「じゃあ何のために?」
「自分のためにだ。……俺はお前と同じように俺のためにしか動かない。それはあの男も同じだ。口では他人のためといっていても、本当は全て自分のためにやっているんだ」
「私は一生自分のためには生きられないって」
「あの男に未来が見えるとは思えないな。どうせお前の言動を以前から見ていたんだろう。それに見えていたとしても、それはあの男の主観だけで判断した客観的な未来に過ぎない。お前は以前から自分のために生きていたのにな」
「どうして?私は他人の助けばかりしていたのに?」
「それを他人のためだと思うな。お前は他人が困っている様子が嫌だから助けたんだろう?ならそれはお前がお前自身を満足させるためにやっていることだ。もし他人のために仕方が無くと思うのなら、二度と他人に手を貸すな」
「…………」
「落ち着いたらここに連絡しろ。手を貸してくれるはずだ」
そう言って、少年はメモを残して保健室を立ち去った。
そして少年と入れ違いに今度は担任教師が保健室に入ってきた。
「起きてたのか。気分はまだ悪いか?」
「はい…………先生、一つ訊いていいですか?」
「ん?なんだ?」
「どうして先生は教師をやっているんですか?何のためですか?」
担任教師は少し考えてから、笑顔でこう答えた。
「俺は自分のためにやっているんだよ。この仕事が楽しいからやってるんだ。あ、でも最初は公務員にあこがれて教師になったんだけどな。ほら、教師って結構給料高そうだろ。実際そうでもないけど」
この答えを聞いて少女はぽかんとしていた。
そして突然吹き出して、声を上げて笑い始めた。
あまりにおかしそうに笑うものだから、教師もつられて笑い出した。夜遅くの保健室に二人の笑い声が響いた。
その後、行方不明の少年は遺体となって発見された。さらに同時期に首と片腕の無い遺体も発見された。いずれもこの近辺で見つかったもので、警察は捜査に乗り出した。
しかし証拠も証言も容疑者さえわからない状態である。そのうち諦めて捜査を打ち切ってしまうだろう。
少女は何か訊かれるものかと思ったが、その心配はまったくなかった。
担任教師は少女と亡くなったクラスメイトの関係を取り越し苦労だと思ったらしく、親にもそのことを伝えたようだ。
おかげで親も教師もクラスメイトの間でも少し機嫌が悪かったという形で終わったらしい。
成績も元通りで、ボランティアにも参加する少女を見てほかの教師たちもそれで納得したようだ。
少女はクラスメイトとして亡くなった少年の葬式に出た帰り、電話ボックスに立ち寄った。手には電話番号の書いたメモ用紙が握られている。
あとは自分の問題を解決しなければならない。自分のために。
少女は意を決して受話器を取り上げた。
アトガキ
雰囲気を出そうとがんばった結果、その分滑稽になってしまった。
ちなみに都合上、前に書いたものと似たような奴が出てきたけどまったく関係ありません。