静かで優しい私の部屋





部屋に帰ると、静寂が迎えてくれた。

暗くて静かな私の廃墟は時が止まったようにここを出た時と何も変わらない姿で、私の親友である事を示してくれた。

明かりをつけると懐かしい故郷に帰ってきたようなの安心感が心を満たした。

玄関に張られたカレンダーは自分が必要とされている事を一月ごとに知る。そして十二ヶ月の短い命を当然のように受け止めている。

ただ貪欲に時を刻み続ける置き時計は、何にも興味が無いという風に静かに自分の使命をまっとうする。何年も前からの私の師匠のようだ。

居間にはテーブルを中心にテレビが一つ、隅っこにポツンと置かれているだけだ。しかしテレビはほとんどつけていない。黒い画面のままがとても自然なのだ。定期的に掃除をしているからそんなに埃は積もっていないと思う。使わないのは可哀想な気もするが帰りの時間が遅い私はテレビなんて見ている余裕がない。

食事を作る元気も無いのでメモがクリップで大量に張られた冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して行儀が悪いがそのまま口をつけて飲んだ。

そのまま電気を消して寝室に直行。朝起きたまま布団がだらしなく中途半端にめくられたベッドの上には一昨日からまったく手をつけていない読みかけの文庫本が乗っている。

ベッドに倒れこむとボフンと空気が抜け出す音がした。やわらかい感触に包まれているうちに意識が頭の奥のほうに移動してゆく気がした。

ベッドの隣に置かれた水色の目覚まし時計が刻む音でさらに奥へ導かれる。

しかし、ある考えが止まれの看板を出していた。そういえば鍵をかけていない。

指先を動かすだけでも億劫だが物騒なので鍵を閉めに行く事にした。

悲鳴をあげる体を無理に動かして立ち上がった。そしてふらふらと玄関に向かった。

かちゃりと鍵をかけてチェーンをかけるとそのままふらふらとベッドに引き寄せられた。

ボフとさっきより勢いは少なくベッドに倒れこんだ。

そしてさっきよりも早く、眠気が襲ってきた。今度は行き止まりの看板は見当たらないらしく、私の意識はどんどん深みに落ちていった。

じゃあおやすみ。また明日。






アトガキ

自分の部屋が一番優しい。