太陽の下で燃えるランディ





太陽の光がぎらぎら輝く夏。

公園でずいぶんと老けた男がスーツの上から妙な形の鞄を背中に背負っていた。小さな女の子が缶ジュースを飲みながらそれを見ている。

鞄は黒のランドセルを改造した物のようにみえる。その下からノズルのようなものが二つ突き出ていて、三角形の翼のようなものが両側からびしっと突き出ている。

男は右手を高々と上げ、左手を腰に構えてぎゅっと拳を握った。そのポーズをとったまま男は言った。

「どうだ。これが僕の造った超ロケットランドセルさ」

その様子を見て女の子は呆れたように訊いた。

「前のロケットランドセルとはどう違うのさ?」

男は両手を腰に当てて言った。

「何もかもが違う。まずランドセルが違う。前のより三千円も高いんだぞ」

「それで?」

「あと、エンジン。たぶん三倍は強力になってる。それと前回よりも飛べる高度が高くなっている。たぶん三倍ぐらい」

「前、飛んでないじゃん」

「いや、今回は飛べる。なにより前とは気合が違うからな」

「三倍ぐらい?」

「三倍、ちょっとぐらい」

「ふーん」と言って女の子は缶ジュースをぐびぐび音がするぐらい豪快に飲み干した。それから横目で公園の入り口をちらっと見てから、空き缶を放り投げた。

空き缶はゴミ箱を大きく外れたが、女の子はまったく気にしていないようで奇怪なランドセルを背負った男に言った。

「危ないから先にマネキンで試そうよ」

「何を?」

「ロケットランドセル」

「ああ。そうだな。ランディを呼んでこないと」

女の子は首をかしげた。

「ランディ?前はトムじゃなかったっけ?」

「トムは前回の実験で吹っ飛んだ頭が見つからなかったからね、ランディに生まれ変わったんだ」

「頭取り替えたの?アンパンマンみたい」

女の子はくすっと笑って言った。

「アパマン?」男は眉をひそめて訊いた。

「アンパンマン。頭を付け替えるヒーロー」

「ああ、確かにアパマンだ」

男は納得したようで手を叩いて笑った。

「だからアンパン。まあどっちでもいいけど」

「それじゃ、ランディを呼んでくるよ」

男はランドセルを背負ったまま走って公園を出て行った。入り口で男とすれ違った女が気味悪げに男の背中を見送っていた。

女は公園の地べたにしゃがみこんでいる小さな女の子を見てぎこちない笑顔を向けると、歩み寄ってきた。

「こんにちは、お嬢ちゃん」

女は前かがみになって言った。

前かがみになった女の影が女の子に覆いかぶさった。女の子は不審そうに目の前の女を見上げた。

「さっきの人、お嬢ちゃんのおじいちゃん?」

女は訊いた。

女の子は何も言わず首を横に振った。

「じゃあ親戚の人?お隣さん?」

女の子は続けて首を横に振った。

「知らない人?」

また首を横に振った。

「じゃあ誰?」

「友達」

女の子はぶっきらぼうに答えた。

「いつからの友達なの?」

女は訊いた。すると女の子は立ち上がって大きな声で言った。

「うっさいな。おばさんには関係ないでしょ」

女は前かがみになったまま唖然とした表情でしばらく動かなかった。そして数秒間女の子に睨まれたのち、さっと表情を変えて「そうね。それじゃあね」と言って早足に去っていった。

女の子は額に汗を浮かべてまたしゃがみこんだ。

セミの鳴き声があたりに響き渡っていた。少し風が吹いて、生暖かい風が女の子に絡みついた。

「おーい。ランディだよ」

大きく右手を振って、左手に自分の身長とおなじぐらいのマネキン人形をかかえながら男が戻ってきた。

マネキン人形は茶色の髪を艶めかせ、誇らしげな顔をしていた。その顔は白かったが、体は十分に日焼けした小麦色だった。

男はランディを女の子の目の前にどんと置いた。

「僕らのヒーロー、ランディさ」

「ヒーローって?」

「顔を付け替えられるから」

男は自分の背負っているランドセルを肩から下ろして、それをマネキン人形に背負わせようとした。マネキンはランドセルを背負わせるには大きいうえ、びしっと気をつけをしていて、背負わせるのに手間がかかっていた。

「ねえ」

女の子はどこか遠くの方を見ながらマネキン人形に悪戦苦闘している男に訊いた。

「ん?」

「私がピンチになったらヒーローみたいに飛んできてくれるかな?」

「んー。ランディは来ないと思うけど?」

「そうじゃなくてえ」

女の子はいいかけた言葉を切って下を向いた。

男はマネキン人形にランドセルを背負わせることに成功して「よし」と腰に手を当てて満足そうにマネキン人形を眺めた。

「僕も無理かな」

男は言った。

「どうして?」

「頭が無くなったらたぶん死んじゃうから、ヒーローみたいにはいかないと思う」

「じゃあ来るの?」

「そりゃ友達は助けにいかなきゃ」

「飛んでくる?」

「超ロケットランドセルでよければ」

男はズボンのポケットから箱型のものをとりだした。その箱には強、中、弱、止と書かれたボタンが四つ並んでいて、金属のアンテナがついていた。

「それで飛ばすんだ」少女は立ち上がってそれを眺めた。

「ランディ・アパマン」

唐突に男は言った。

「へ?」

きょとんとして女の子は訊き返した。

「いや、ランディのフルネーム」

「ランディ苗字だったの」

「ランディはファーストネーム。アパマンがファミリーネーム」

「ファースト?」

「外国人の名前。彼らは苗字が後ろなんだ」

「へえ。ランディ・アパマン」

女の子は腕組みしてマネキン人形を眺めた。

マネキン人形は気をつけをして翼のはえたランドセルを背負いながら、相変わらず誇らしげな顔をしていた。

「じゃあ飛ばすよ」

男と女の子はマネキン人形から遠ざかった。

二人は公園の入り口付近の茂みに隠れてマネキン人形を見守っていた。

二人は声をあわせてカウントした。

「さん、にー、いち」

男は弱と書かれたボタンを押した。

ランドセルが爆音をたて、二つのノズルから火が吹き出した。

続けて、中と書かれたボタンを押した。

ランドセルの発する爆音はさらに大きくなり、吹き出した火の勢いが強くなった。がたがたとマネキン人形が震えだした。

そして男が強と書かれたボタンを押した時、大きな炎があがった。

強烈な爆発音。それとともにマネキン人形の背中は砕け散り、四肢が吹っ飛んだ。頭は炎に包まれて男と女の子の前にぼとりと落ちた。

女の子は呆然としながら言った。

「前よりすごい爆発」

「うん。三倍すごい」

女の子は笑って言った。

「やっぱり飛んでこなくていいや」

「うん。走っていく」

そういって男は笑った。

強く輝く太陽が二人を見下ろしていた。






アトガキ

このタイトル。冗談のつもりでつけたのにこれ以上のタイトルが思いつかなかった。

半分ぐらい書いてから時間置いて続き書いたから、途中で出てきた女をどういった役割で使うのか完璧に忘れてしまっていました。

しかも最初はランディの頭が見つからなくてトムの頭をつけるという設定だったのにマネキンが出てきた時には逆転していた。面倒だからそのまま前に書いたところを直しました。

なんかぐだぐだだけど、とりあえず夏を舞台にした物語ってことで目標は達成。