いつものライブラリー





図書室に三人の人間と一匹の黒い蝶がいた。

三人のうちの一人は女の司書だ。他の二人は男女の図書委員である。蝶は昼間どこからか入り込んだのであろう。

放課後の午後四時になろうとしているのだが、本を借りにくる生徒は今日まだ一人も現れていない。

カウンターで図書委員の男はずっと漫画を読んでおり、図書委員の女はなにやら専門書を読んでいた。司書はずっと本の整理をしていた。

そうしていた時、突然大きな音がして司書の悲鳴が上がり、図書委員の二人は同時に顔を上げた。

司書は床に本をばら撒いて尻餅をついていた。どうやら大量の書物を持ちながら梯子を上っていたら足を滑らせて落ちてしまったようだ。

図書委員の二人は興味無さげにまた自分の読んでいる本に目を戻した。司書は痛そうに腰をさすっていた。その時黒い蝶が司書の頭の上にとまったが、司書はまったく気づいていないようだった。

突然、プルルルルと電話が鳴った。

司書はさっと立ち上がってカウンターの奥の部屋に小走りで向かった。黒い蝶は驚いてぱっと頭を離れ、ひらひらとカウンターのカレンダーにとまった。

しばらく何やら電話で話していたが、十分ほどしたところで戻ってきた。図書委員の二人は顔も上げずに本を読んでいた。

司書は急いでいるようでさっき床にばら撒いた本を集めてまた梯子を上った。一応足を踏み外さないよう足元に気を使っているようだった。図書委員の男は持っていた漫画を読み終えて携帯電話をいじり始めた。

静かな風が開けた窓から入り込んできた。

風で髪が揺れて図書委員の女はふと顔を上げた。男はちらりと横目でそれを見たが、またすぐに携帯電話に視線を戻した。

司書がカウンターに戻ってきた。

「ちょっと早いけど今日はもう終わり。帰っていいよ」

図書委員にそう言うとまた奥の部屋に消えた。

図書委員の男は自分の鞄を持っていち早く図書室を出た。図書委員の女は読んでいた本にしおりを挟んで鞄にしまった。

司書は鍵を持って部屋から出てきたと思えば、ぱたぱたと窓を閉めてまわり、図書委員の女はそれを手伝った。

黒い蝶はカレンダーから離れて開いている窓に向かって飛んだ。その最後の窓を閉めようとした司書は蝶に気づくと、蝶が出て行くのを少し待った。

時計は四時半を指していた。この図書室が閉まるのは原則五時となっているが、時々司書の事情で時間が早まったりする。

司書は黒い蝶が飛び去ったのを見ると、さっと窓を閉めて図書室を出た。図書委員の女は先に部屋を出ていた。

図書委員の女は司書が鍵をかけるのを見届けると廊下を歩き出した。その隣を鍵を持った司書が走って抜けてゆく。

黒い蝶は空に帰り、また明日図書室が開くのを待っていた。






アトガキ

図書室って誰も来ない日とかほとんどないな。

良い子は梯子から足を踏み外した司書さんがいたら無視しないで助けてあげましょう。