狐の子供は訊きました。
「ねえねえ、どうしてあっちにはあんなに高い壁があるの?」
狐の父親は答えました。
「あっちにはね。凶暴な狸が住み着いているんだよ」
「狸さん?」
「そうだよ。狸に襲われて食べられちゃうんだ」
「どうして狸さんは僕たちを食べるの?」
狐の父親はこれには返答に困りました。小さなころから狸は狐を食べるというのが常識でしたが、なぜと言われるとわかりませんでした。
「狸は何でも食べちゃうんだよ」
「何でも?アスファルトでも?コンクリートでも?」
狐の子供は驚いて目をまん丸にして訊きました。
「ああ、何でも食べちゃうんだ」
実際狐の父親は狸がアスファルトやコンクリートを食べているところを見たことがなかったのですが、凶暴な狸のことだ、きっと食べるに違いないと思いました。
「じゃあ狸さんの家は何処にあるの?学校は?デパートは?遊園地は?」
「狸は食べること以外何も知らないんだよ。だから科学が発達しないんだ」
狐の父親は狸の科学力のことなんか知りませんでしたが、凶暴でなんでも食べてしまう狸なら科学なんて発達しないだろうと思いました。
「ええ?じゃあ狸さんは毎日何をして過ごしているの?」
「狸は……食べてばかりなんだよ。毎日、餌を探して過ごしているんだよ」
狐の父親は狸の生活習慣なんて知りませんでしたが、凶暴で科学の発達していない頭の悪い狸のことだ、きっと食べてばかりなんだろうと思いました。
「へえ。じゃあ壁の向こうは狸さんに食べられちゃってほとんど物が無いのかな」
「きっとそうだね。もしかしたら狸は同じ狸の仲間を食べているのかもしれないね」
「ええっ。そんなのかわいそうだよ。狸さんに食べるものをあげなくちゃ」
狐の子供は急いでいらない物を集めだしました。
「お前は優しいな。よし、お父さんも手伝ってあげよう」
狐の親子は家中を引っ掻き回して、使わなくなったものを集めました。
どろどろになったシャツやハンカチ。壊れたCD。使えなくなった電池。その他、様々な物を大きな風呂敷で包みました。
「たくさん集まったね。これなら狸さんも友達を食べなくてもお腹いっぱいになれるね」
「よし、お父さんが壁の向こうまで投げてやろう」
狐の父親は風呂敷を持ち上げると、力いっぱい壁の向こうに投げました。
風呂敷は遠くまで飛んで、大きな音を立てて落ちました。
「狸さん、いっぱい食べてね」
狐の子供は満足そうにいいました。
「諸君、我々はこれ以上、狐の横暴な行いを許すわけにはいかない」
演説台に立つのは狸の首相でした。
「壁の向こうから有毒物質を撒き散らし我々の環境まで悪化させたばかりか、数多くの動物の命を無為に奪い絶滅へと追いやった。やつらの愚行はあらゆる環境を破壊する。大地は熱くなり、木々は焼かれ、空は汚され、生命は奪われる。そして先日の事件を我々は決して忘れない。狐がゴミを放ってきたのだ。我々の領地にゴミを放ってきたのだ。奴らは我々の領域をゴミ捨て場にするつもりに違いない。これは協定に反する行為だ。しかも落ちてきたゴミの下敷きになり、小さな子供が被害を受けた。我々が守ってきた土地にゴミを捨てる権利が奴らの何処にある?何の罪もない子供に重傷を負わせる権利が奴らのどこにある?絶対に奴らを許すわけにはいかない。そしてこれ以上この世界を狐共の好きにさせるわけにはいかない。我々は狐共に宣戦布告をする。我々は絶対に負けない。奴らは同じ種族の中でも協力し合えないような愚かな者どもだ。そんな奴らに我々が負けるはずがない。私は狐共を一匹残らず駆除するまで戦い続けることをここに宣言する」
狸の首相が言い終わった時、大きな拍手が沸き起こりました。
そこには数え切れないほど多くの狸がいました。それぞれ銃を持っていたり、狸の国旗を掲げたり、狐を野次る看板を持っていたりしても、それでも、皆の思いは同じでした。
でも壁の向こうで誰が何を考えているかは狐にも狸にも誰にもわかりませんでした。
アトガキ
前に聞いた話をアレンジ。いや、パクリじゃ……ないよね?