ユーイチは自室で拳銃の分解をしていた。
ユーイチの部屋には同世代の男子高校生と同じように、机が一つあって、隣にギターとアンプが置いてあって、デスクトップのパソコンと巨大なスピーカーが一つ置かれていて、真っ黒な四角いIMがそれに繋がれている。
しかし、この部屋は変わっている。
実はこの部屋はユーイチの親には内緒で電子防音壁をしこんである。
防音壁を手に入れるのは大変だった。親に新しいIMを買うからと言ってこつこつ貯めてきたお金で買ったのだ。それを自力で、気づかれずに壁に仕込むのはもっと大変だった。しかしこの防音壁がないとあちこちから大音量で流れる音楽で頭がおかしくなってしまう。
完全に音をシャットダウンできるヘッドホンをつければ大丈夫なのだが、ユーイチはこれをほぼ一日中頭につけている。防音壁を仕込むまではヘッドホンをつけっぱなしで今度はそのことで頭がくるいそうだった。
時計を見るともう八時だった。おそらく外ではいつもの“気分が良くなる朝のラジオ体操アレンジ88”が流れていて、老人達が集まって気持ちよくラジオ体操をしていることだろう。あの音楽もやはりIMだ。
ユーイチは拳銃にセーフティをかけて、鞄にほうった。
それから学校のブレザーを着て電子防音壁のスイッチを切ってから部屋を出た。
ちらりと携帯電話を見てみると、メールが70件来ていた。これから一つづつそれらを確認して返信しなければならない。
これらは学校の友人でもガールフレンドからでもない。いや、学校の生徒には滅多にメールなどしないのかもしれない。コミュニケーション手段といえばIMのオンラインサービスが主流だ。
ユーイチは階段を下りながら、下から奇妙な音が聞こえるのがわかってあわててヘッドホンをして防音スイッチを押した。ただちに音という音が全てシャットダウンされる。
こうしてユーイチは音のない世界を生きる。しかし、それは彼が望むものではなかった。
世界は音で狂っていた。
ユーイチがリビングの扉を開けた時、リビングでは“朝のための快適なポップスシリーズ”が流れていた。これは母親が家を出るまで三時間ほど流れ続けている。だいたい二十五トラックほどだ。
ユーイチはヘッドホンで何も聞こえていない。
母親はユーイチはこのポップスシリーズが嫌いなものだと思っていた。だからご機嫌で何も言わずに朝ご飯を用意して、洗濯物を取り込むためにリビングのIMとリンクしているヘッドホンをつけてベランダに出ていった。
ユーイチは無表情でトーストをかじっていた。音がないだけのはずなのに、なぜかトーストも味がしなかった。母親の自慢のブルーベリージャムを塗ったところで何も変わらない。
ほとんど飲み込むようにトーストを食べ終わったユーイチは何も言わずにすぐに家を出た。学校まで徒歩で三十分ほど。街には無数の音楽が溢れている。しかし、そのどれか一つですらユーイチには届かなかった。
通勤中のサラリーマンはイヤホンをして“懐かしのヒットソングアレンジ2000”を聞き続けていた。
バスの中には“通勤のための夢のクラシック達”が流れていた。
道路を走るどの車からも音がもれていた。
工場にも、ビルにも、飛行機にも、地下鉄にも、交差点にも、商店街にも、あちこちで音楽が鳴っていた。
大人達は音楽を貪り、丸々と太っていた。でも誰もそれに気づいていない。
ユーイチは太った大人達の間をすり抜けて学校に向かった。
インスタントミュージック(IM)と呼ばれる物が世に普及しだしたのはわずか数年前。その本体機器と曲のことをIMという。オンラインダウンロードで無数に増える曲の種類や個人ごとにぴったり合った曲を選び出してくれるシステム、様々な感情を生み出す曲によりあっというまにIMは大ヒットした。その後も選び出した曲によって同じ感情を他人と共有できるミュージックコネクタなどのサービスが普及し、音楽は流行の移り変わりの速度が異常に早くなった世の中に永久に抜けられない大海を生み出した。
今では老若男女誰もがIMの虜となっていた。
うれしい時にさらにうれしさを増幅させてくれる。悲しいときに慰めてくれる。やる気を起こしてくれる。
魔法の黒い箱は人々から怒りや憎しみを消し去った。唯一平和を作ることが出来る、神のアイテムとも讃えられた。
しかし、それに納得しないものもいる。
ユーイチは昼休みの“心を休めるための民族音楽”の流れる教室をヘッドホンをしてケータイメールをしながら過ごしていた。
ほとんどの生徒はリラックスしながら軽く談笑をしている。
ヘッドホンで“集中力を高めるテクノミュージック”を聴きながら宿題やテスト勉強をしている生徒もいる。
たんに自分の好きな曲を聴いている生徒やミュージックコネクタを使って誰かとコミュニケーションする生徒もいる。
いまや大人子供関係なく一人一台は当たり前にIMを持っており、学校や企業でも作業効率を上げるために活用している。
ユーイチは鞄の中の拳銃を気にしていた。
セーフティはかけておいた。暴発の心配はないはず。鞄の中を見られる心配なんかない。でもやっぱりマガジンは外しておいたほうが良かったかもしれない。しかし学校の中で取り出すわけにはいかない。考えないようにしようとしても、どうしても気になる。
急に肩を叩かれてユーイチは驚いて振り返った。
後ろの席のセミロングの髪におっとりとした目の女の子がメモ用紙をちぎった小さな紙を差し出している。彼女はあまりに大袈裟なユーイチの反応に少し驚いているようだった。
彼女は昔からの馴染みでユーイチがIMが嫌いな事を知っている数少ない人間だ。だからユーイチのヘッドホンが防音仕様なのも知っている。彼女は休み時間に呼ばれた時、このように紙で伝えてくれる。
ユーイチは礼を言って、その紙を受け取った。奇妙な声になっていないかと心配になったが彼女は少し微笑んで、ぽけっとからイヤホンを取り出して耳につけた。またいつもの“女性のためのメロディックハードコアパンク”だろう。
渡されたその紙には先生に呼ばれている、と書かれていた。
一瞬鞄の中の拳銃のことが頭に浮かんだが、そんなはずがないと頭を振った。
ユーイチは立ち上がり、教室を出た。
すれ違う生徒達のほとんどは音楽を聴いていた。
子供たちは魔法の音に溺れている。
ユーイチとカナコは中学のときからほとんど同じクラスでよく話したりもしていた。しかし別に恋人だったわけではない。高校までカナコにはつきあっている彼氏がいた。
それはユーイチも良く知る人物で、コータといった。
コータは長身で顔立ちの整ったかっこいい男だった。運動もまあまあ出来たし、頭も良かったし、服のセンスも髪型もよかった。
ユーイチ、カナコ、コータの三人は中学の頃バンドを組んでいた。
ユーイチはギター、カナコはベース、コータはドラム。中学生ながらも自分たちで作曲をしてライブハウスで演奏もした。
ユーイチは天才的にギターがうまかった。カナコやコータの優秀な指導係で頼りになるバンドのリーダーでもあった。
しかしユーイチが優秀であっても、後の二人は中学に入ってから音楽をやり始めた素人同然の人間だ。やはりたいして目立つバンドではなかった。
それでも三人は楽しんでいた。
それなりに毎日が充実して、自分たちの技術が上達してゆくのがうれしかった。
彼らが中学3年生のころだ。その日々が壊れたのは。
ユーイチは教師に呼ばれて職員室にいた。
職員室は一応IMが流れていない。だから教師たちは皆イヤホンをつけてPCに向かっているか書類の整理をしているかお茶を飲んでいた。
ユーイチはヘッドホンを外して数学のヤマモトの机に向かった。
角刈り頭にジャージを着た一見体育教師のような風貌のヤマモトはユーイチを見つけるとイヤホンを外した。
ユーイチはやっと自分が呼ばれた理由を思い出した。
授業でまったくやる気がなくて話もろくに聞いていないのもその理由の一つだが、前回のテストでひどい数字をとってしまった上に提出しなければならない課題を忘れていたのだ。呼び出される理由としては十分だ。
ヤマモトはユーイチの思った通りのことを話した。
説教は昼休みが終わるまで続き、ヤマモトはユーイチの態度にまだ納得しきれていない様子だったが、しぶしぶユーイチを帰した。
ヤマモトの眉間に寄ったしわはイヤホンをするとすぐに無くなって、いつもと同じように次の授業に向かった。
あまりに説教が長かったのでユーイチは次の授業は遅刻だった。どうせだからとそのまま学校を抜け出すことにした。
誰にも気づかれなかった。廊下に足音が響いたところで誰にも聞こえてはいない。IMでいっぱいになった頭にはそんなものは届かなかった。
外は強い風が吹いていた。
ユーイチはその中を音の聞こえないヘッドホンをしながら歩いていた。しかし、ユーイチには聞こえていた。
あの懐かしい音。インスタントでない音楽。いつか最高に心を揺さぶられ、辿り着くことを誓ったはずの今はなき音楽。
それは人々が探し求めていた物ではない。ユーイチにとってそれは、何千パターンも生成される薄っぺらい音や計算されつくした歌詞などではとうてい真似する事はできない感動である。
もしかすると大人達は蝿のように疎ましいと思うのかもしれない。子供たちはつまらなく退屈だと思うのかもしれない。でもあの時までユーイチはあの音が好きだった。
しかしもうあの音を聞くことはない。時々頭の中で勝手に再生されるプレイヤーはおそらく壊れているのだろう。
ユーイチは壊れたプレイヤーの音をかき消したくて全力で走った。途中何度か人にぶつかったが、ヘッドホンのおかげで文句は何も聞こえなかった。
昔通っていたコンビニも理髪店もゲームセンターもレコード店もユーイチは振り向かなかった。どこにもIMが設置されている。いつかの楽しさはもう二度と味わえないことがわかっている。
ユーイチは唯一変わらない場所を求めて走った。
中学三年の時、インスタントミュージックと呼ばれる音楽が流行した。
そのころの音楽はすぐに流行が入れ替わるためユーイチはさして興味が無く、いつもどおり自分の好きな音楽ばかり聴いていた。
しかし、コータは流行というものに弱く、いち早くIMを手に入れた。コータはすぐにIMにはまってしまった。
そのころはなんとも思っていなかった。受験勉強もしながらバンドも調子良く続けていたし、学園祭で演奏することも決まっていた。
様子が変わったのはIMが流行りだして二ヶ月ほどたった夏休みのことだった。夏休み明けには学園祭で演奏しなければならないのでやる気を出して練習に励みたいところだった。
ある日コータがリズムを崩し始めた。ミスを連発し始めたのだ。ユーイチは受験勉強で疲れているんだろうと、その日の練習は切り上げた。
しかし、次の日の練習にコータは現れなかった。携帯電話にも出ない。カナコに事情を聞いてみたのだが、黙って首を振るだけで何も答えない。
コータはそのまま夏休みの間、姿を見せなかった。
夏休みが開けてからユーイチはコータに理由を尋ねた。ほとんど掴みかかりそうな勢いだった。
コータはふてくされたように答えた。
IMの影響だった。コータは自分達の音楽にまったく魅力を感じなくなってしまったのだ。どうせこのまま続けていてもプロになれるわけでもないとコータが言ったとき、ユーイチは殴りかかった。
その喧嘩以来、バンドは解散。学園祭の演奏も中止となった。学校では、コータが何を言ったのかカナコとコータの仲を羨んでユーイチが言いがかりをつけてバンドを解散させたということになっていた。
IMが及ぼした影響は大きく、解散したバンドは多かった。それどころか様々なレコード会社が倒産に追いやられた。
IMがある限り、世間にミュージシャンなんて必要なかった。唯一IMにはないライブでその存在をアピールできるが、ほとんどのミュージシャンがそれだけでは商売にはならなかった。だからまだIMがそれほど普及していない海外のレーベルに託す者も多かった。
IMが奪った夢は数知れない。
ユーイチは公園のベンチでIMによって解散に陥ったバンドの人たちとメールをしていた。
みんなIMに少なからず恨みのある者ばかりだ。
ふと思い出してユーイチは鞄から拳銃を取り出した。真っ黒な塊は喉につっかえそうな感じがする。IMの黒い箱型の本体と同じ感じがした。
風が吹いて、からころと空き缶が足元に転がってきた。ユーイチは立ち上がって空き缶を拾って、その空き缶を燃えないゴミのかごに放り投げた。するとまた強い風が吹いて缶は軌道を変えて地面に転がった。
ユーイチは拳銃を空き缶に向けた。
スライドを引いて、撃鉄を起こす。そしてセーフティを外して両目でサイトを覗きながら空き缶に狙いをつけた。
両手が震えていた。空き缶はたびたびサイトから外れる。良く狙おうとすればするほど狙いがつかなかった。
撃たなければならない。空き缶なんか目じゃない相手を撃たなければならないというのに、腕の震えは止まらなかった。
音は聞こえない。拳銃を撃っても鼓膜が破れるわけじゃない。銃声が響いたところで誰も聞いちゃいない。聞こえてもすぐ逃げられる。ユーイチは自分に言い聞かせた。
だから撃て。あの空き缶に大きな穴を開けてやれ。
撃てっ。
ユーイチは引き金を引こうとした。
こおばった腕と震える指先は恐ろしい黒い塊が嫌いだったようだ。ユーイチがいくら指を動かそうとしても震えるばかりでまったく力が入らなかった。空き缶に向けて拳銃を向けたままずっと硬直していた。
ユーイチは目を見開いて空き缶を睨んでいた。眼球はぴくりとも動かない。呼吸が荒くなっていた。歯を食いしばって体全体の筋力を総動員していた。
ユーイチは叫んだ。自分の声が聞こえなくてどんな風に叫んでいたのかわからなかったが、腹の底から大声を出した。
すると少し体を動かすことができそうだった。いびつな形をした黒い塊の嫌いな腕を無理やり動かすことができそうだった。
ユーイチは指に少し力をかけて、トリガーを引いた。
高速で発射された焼けた銃弾は公園の硬い地面にめりこんだ。そこに空き缶はなかった。空き缶から数メートル離れた地面である。
ユーイチは呆然と無傷の空き缶を眺めていた。そしてそのままゆっくりと拳銃を降ろして後ずさった。
強い風が吹いた。
空き缶がからころ転がって行った。ユーイチの目は空き缶を追った。
空き缶はほっそりとした白い手に持ち上げられ、ユーイチは思わず視線を上げた。
セミロングの髪におっとりとした目の女の子が空き缶を持ってそこに立っている。彼女は何か言ったようだがユーイチには聞こえなかった。
「カナコ」
ユーイチはつぶやいた。
カナコは空き缶を放り投げた。空き缶は綺麗な弧を描いて音を立ててかごに入った。それからポケットから手帳を取り出すと素早く何か書いてユーイチに渡した。
メモには「IMは流れてない」と書いてあった。
ユーイチはヘッドホンを外し首にかけて一度頭を振った。久しぶりに風の音を聞いて少しすっきりした。
「ユーイチ。何してるの」
「何って……」
ユーイチは今気がついたように拳銃を見て、慌てて後ろに隠した。
「拳銃?本物?何それ?何でそんなもの持ってるの?」
「……何でもいいだろ。それより何でお前こんなところにいるんだよ。まだ授業終わってねえだろ」ユーイチは俯いて答えをはぐらかそうとした。
「ユーイチ。それで何をするつもりなの?」
「お前には関係ない」ぶっきらぼうに答えた。
「何それ?意味わかんない。わかってんの?それは人殺しの道具だよ」
「違う。インスタントミュージックを殺す力だ」
「何言ってんの?インスタントミュージックは銃じゃ死なないよ」
「だけど人の目を覚まさせることはできるかもしれない」
「できないよ。何でユーイチがそんなことをしなきゃいけないのよ」
「やらなきゃならないんだ。インスタントミュージックは俺から全て奪い去ったんだ。カナコ、俺たちはインスタントミュージックにコータを奪われた。これから生きていくための夢を奪われたんだ」ユーイチの声には怒気がこもっていた。拳を握って何かをかみしめるように言った。
「だけど、ユーイチはまだ自分の音楽を続けられる。私もまだコータを失っただけ。まだ終わってないんだよ」
「お前もインスタントミュージックにとりつかれてるだけだ。ありもしない希望にすがるなよ」ユーイチは叫んだ。
「ユーイチこそインスタントミュージックにとりつかれてるじゃない。そのヘッドホンだってインスタントミュージックだよ。どうしてそんな駄目な風に考えるの?インスタントミュージックが嫌いで、人の目を覚まさせたいと思うならそんなものに頼っちゃだめだよ。天才ユーイチの音楽はどこにいったのよ」
ユーイチはカナコに背を向けた。
今すぐ走り出したい衝動に駆られた。ヘッドホンをつけて音のない世界でうずくまりたいと思った。
頭の中で懐かしい音が聞こえそうで嫌だった。とても嫌な事を一気に思い出しそうだった。
ユーイチはそんな想いを悟られまいと強がって言った。
「天才なんて言ってたのはお前とコータだけだぜ」
「ユーイチは天才だよ。私達を感動させたんだから。コータだって流行がさめればまたユーイチと音楽がやりたくなるよ。その時にコータを失望させたら、それはだめでしょ」
ユーイチはカナコに背を向けたまま目を閉じて深く息を吸い込んだ。そうして拳銃を持った腕を高く上げた。そして再び叫ぶ。
何度もトリガーを引いて、腕に大きな衝撃が走った。信じられないほどの爆音が何度も響き渡った。
全弾撃ちきり、スライドストップのかかった拳銃を地面に叩きつけた。それから足で踏みつける。力のこもった足も銃が嫌いなようで、ありったけの力で拳銃を踏みにじった。
すると音楽が聞こえた。懐かしい音だ。しかしその音は壊れた頭のプレイヤーから聞こえているわけではなかった。
拳銃から足をどけて振り返るとカナコが小さなスピーカーを持っていた。スピーカーは白くて小さな箱型の音楽プレイヤーに繋がっている。それはIMが流行する前に一般的に使われていた携帯音楽プレイヤーだった。
それはユーイチが作った最初の曲だった。自分ではまだまだ納得できないところの多い未熟な作品だ。だけど、そこにはとにかく勢いがあった。
「つうか、あれだ」
ユーイチは少し照れて頭を辺りを見回した。
「早く逃げよう。……誰か来るかもしれないし」
「そうだね」
カナコはふと微笑んだ。
ユーイチは慌てて落ちた薬莢を拾い集めて、探せるだけ弾丸を探して回収した。そしてカナコと一緒に走って公園を後にした。
そのときユーイチはヘッドホンをつけるのを忘れていた。
次の日、ユーイチは途中で学校を抜け出した事がヤマモトにばれてこっぴどく怒られた。それから公園に何発か弾丸が残っていたらしく、なんだか騒ぎになったようだ。ユーイチは自分がやったとばれないかひやひやしていた。銃はその日のうちに綺麗に洗ってからゴミステーションのゴミ袋に混ぜておいた。そのうち見つかるかもしれない。
“心を休めるための民族音楽”の流れている教室でユーイチは相変わらずヘッドホンをしながらメールをしていた。だけどヘッドホンからは小さく音が漏れていた。
ヤマモトからの呼び出しがあったらしく、カナコにメモを渡されてユーイチはため息をつきながらも職員室に向かった。どうせまた説教の続きだろう。
学校の生徒のほとんどはIMを聴いていた。職員室の教師たちもIMを聴いている。世界中に溢れ、皆溺れている。
説教を終えたユーイチはある計画について考えていた。四時間目を終えたあたりで、その計画はまとまったらしく、また学校を飛び出してしまった。
数学のヤマモトは授業を無断ですっぽかされて怒りが沸騰していた。
それから三ヶ月後。
ユーイチはステージに立っていた。
学園祭の終わり、バンド演奏の項目でエントリーしていた。前にエントリーしていた漫才コンビの寒いお笑いの後で観客席はがらがらだった。
ギターボーカルのユーイチ。ベースボーカルのカナコ。それからユーイチがメールで知り合ったミュージシャン二人。
唐突にイントロが始まり、ユーイチは叫んだ。
「くたばっちまえよっ」
アトガキ
なんか曲のイメージで書いてみよう!というよくわからないチャレンジ精神が沸いてきた。イメージっていうかもうインスタントミュージック言っちゃってるし。歌詞もちょっと入れてるし。終盤ぐだぐだだし。
とりあえずインスタントミュージックの原曲が好きな人ごめんなさい。そして知らない人はかなりカッコイイので一度聴いてみてください。