その店は人で溢れていた。
店の中は大音量の音楽が流れていて、いくつものカラフルなライトが飛び回ってフロアを照らしていた。
ステージではドレッドヘアのDJがターンテーブルを操作している。
店の中にいるのは若い人ばかりで、中央に集まって音楽にあわせて踊っている者やテーブルで酒を飲みながら楽しそうに仲間と談笑している者がいた。店の中にいる人間の共通点は、皆十代か二十代前半の若さであることと、もう一つ全員が同じ黒のリストバンドをしていることだ。リストバンドには赤で蛇の刺繍が縫われていた。
音楽がリズムを変えた。ビートが走り出した。カラフルなライトは狂ったように飛び跳ねる。真ん中で踊っている人たちはより激しく頭と腰を振った。髪を振り乱して汗が飛び散った。
蛇が踊る。蛇が笑う。狂喜が加速する。紙一重で統率を保つ混沌が濃くなり、場を熱く高めてゆく。
ビールの入ったグラスが割れた。
飲んでいた男の一人がおもしろがってテーブルの上に叩きつけたのだ。男のテーブルに座っていた人間はみんなげらげら笑って同じようにグラスをテーブルに叩きつけた。ガラス片が飛び散り、中のビールがテーブルに広がった。
笑いが伝染した。
隣のテーブルにいた男たちも笑ってグラスをテーブルに叩きつけた。次々と笑いが伝染してテーブルでグラスを割る。
蛇が壊す。蛇が笑う。
手が血まみれになっても皆で笑った。
音楽が止まった。
踊りも笑いもぴたりと止まった。光は落ち着いた。
DJが立ち上がって、全員の視線がDJに集まった。
「俺たちは一人じゃない。俺たちは理解しあう。俺たちは一つになれる」DJは言った。
「俺たちは信じない。俺たちは認めない。俺たちは許さない。俺たちは感じあう。俺たちは笑いあう。俺たちは契りあう」
人々は復唱した。
「さあ、始めようか。今夜も蛇は一つになる」
音楽が再開された。光が舞った。人々の腕が掲げられた。
蛇が踊る。
蛇が笑う。
蛇が壊す。
蛇が笑う。
そして蛇が一つになる。
アトガキ 2008/11/12
幻想未来都市第二弾……とか考えてたけど未来っぽさかけらもない!
というわけでそれはまた今度挑戦する事にします。
俺たちは大蛇になる!