早朝のエチュード





朝早く、まだ太陽が昇りきらないうちに壊れた電燈の点滅する薄暗い道路を走り抜ける。

もう二年近く履いているボロボロのスニーカーの地面を踏みしめる音が町内にリズム良く響き渡った。

しかしその音は走っている本人には届いていない。走りにあわせて揺れるコードがポケットから耳へと続き、先端のイヤホンからハイテンポのロックが音漏れしない程度に流れている。

時々、新聞配達の自転車とすれ違い少し頭を下げて、元気良く笑顔で挨拶をした。配達員も気持ちの良い笑顔で挨拶を返した。

途中一度だけコンビニに寄った。町で一つだけの小さなコンビニで、おそらくチェーン店なのだろうが、殆ど見かけない看板だ。

自動ドアを抜け、すでになじみの顔の朝の中年の女性店員がいらっしゃいませと言って規則どおりの綺麗なおじぎをする。しかし、彼女にとっては規則というよりもそれが素のようだ。

コンビニに入ると、真っ直ぐ紙パックのジュースが売ってあるコーナーに向かった。そして必ずそこに一つ以上残っているイチゴミルクを手に取る。パックには白とピンクのグラデーションの上に一つ苺の絵が描いてあった。値段はジュース類で一番安い部類だ。

次に、近くにあった魚肉ソーセージを一本取った。それらをもってレジに向かう。

女性店員は手馴れた様子でレジを打ち、値段を告げたが、すでにレジには小銭が数枚出されていた。女性店員はレジ袋にイチゴミルクと魚肉ソーセージを入れると、小銭を受け取り、レジを打って出てきたレシートを渡さずにそのまま捨てた。

渡されたレジ袋を受け取って、ありがとうございましたと言ってお辞儀をする店員につられて軽くお辞儀をして、コンビニを出ると再び走り出した。

それから十五分ほど走ると、少し広い公園が見えてくる。

公園にはまだ誰も来ておらず、落ち葉の乗った赤いベンチに座った。

膝の上のレジ袋からイチゴミルクを取り出してパックの口を片方開いて、付属のストローをさして一口飲み、イチゴミルクをベンチの隣において、魚肉ソーセージを取り出した。

そして魚肉ソーセージを半分ちぎって、片方を口に咥えて、もう片方を地面に置く。すると、何処からとも無く猫がとことこ歩いてきた。白地に黒の猫で、ベンチの前まで来て魚肉ソーセージをかじった。その頭をなでてやった。

猫はあっという間に魚肉ソーセージを平らげて、来た時と同じようにとことこ何処かへと帰っていった。

猫が帰るのを魚肉ソーセージを食べながら見送って、しばらくベンチでイチゴミルクを飲んでいた。

すると、遠くから走る靴の音が聞こえる。

音はこちらに向かってきており、ふとそちらを見てみると若い体格の良い男性が首にタオルを巻いて走っていた。

男性はこちらを少し見て少し笑って、走り去っていった。

それを見送るとちょうどイチゴミルクが無くなったので、空のパックと魚肉ソーセージの袋をレジ袋に入れて走り出す。公園を出るときに近くにあったゴミ箱にレジ袋を捨てた。

音楽が終わっているのに気がついて、ウォークマンをポケットから出して再び再生した。ハイテンポのロックがイヤホンから流れ出した。

そしてポケットにウォークマンをしまうと、スピードを上げてもと来た道を駆け抜けた。あたりは随分明るくなって、人の姿がちらほら見えていた。

朝はようやく動き始めたようだ。






アトガキ

とりあえず迷走気味でネタがないんで、練習もの。