鳥になった少年と少年になった鳥





気がつくと僕は鳥になっていた。

心当たりがないわけではない。昨日の夜のことだ。

僕は一人勉強机に向かって憂鬱にしていた。また塾の模試テストの点が下がったのだ。このことは親にも通達され、僕はこっぴどく叱られた。それで机に向かってため息ばかりついていたのだ。

そんなときふと思ったのだ。もっと自由に生きたいと。

僕は窓を開け、最近できたすずめの巣を眺めた。そうして鳥になりたいと思ったのだ。誰にも邪魔をされずに大空を羽ばたきたい。

そう思った瞬間、夜空がきらめいた。流れ星だった。

偶然にも僕は流れ星に願い事をすることができたのだ。でも三回言わなきゃならないんだっけ?いや、ただの噂話だからな。

あのときベッドについたはずの僕は、朝になると鳥になっていたのだ。

まずは何をしようか。

僕はせっかく鳥になれたことだから精一杯楽しむことにした。しかし僕の背後でそれを許さない声があがった。ひな鳥たちだ。

大変だ。急いでえさをとりにいかないと。

僕の体は飛ぶことを知っていた。僕は短く羽ばたくと、朝の町を飛翔した。

えさはどこにいるんだ。どこもかしこも住宅街ばかりじゃないか。山とか森はないのか。

僕はしばらく街の上を飛び続けた。すると先のほうで山の岩肌が見えた。

あそこになら何かいるかもしれない。

僕はいったん電柱に降りるともう一度羽ばたいた。かなり疲労していたが、えさを待っているひな鳥たちのことを考えると止まってなんかいられない。

そうして切り崩された岩肌に到達した。しかし、この山は重機などがたくさん稼動して、どんどん山を削っていた。

奥のほうまでいって急いでえさをとらないと。

僕はさらに山の頂上を目指した。

ここにはまだ木々がのこっている。虫ぐらいはいるだろう。

僕は山の中をえさを求めて飛び回った。一応えさは見つかったものの一回では足りない。僕は何往復もしてえさをとり続けた。そうしてひなにえさを与えているときだった。

僕が巣に帰ってくると別の鳥がひなを一匹咥えているではないか。そいつはいやらしい目つきを僕に向けた後、飛び去った。もちろん僕はすぐに後を追った。

やめて、その子を離して。

僕は鳴き続けた。雛がいなくなると思うととてもつらかった。だけどあの鳥のほうがはるかにスピードが速い。あっという間に僕は撒かれてしまった。

僕は鳴きながら雛を探した。住宅街の端から端まで。もうすぐ日が落ちようというとき、雛のいるところがわかった。

あの山の中か。もしかしてえさを探している途中で後をつけられたのか。

僕は急いで山へと向かった。頭の中にあるのは雛のことだけ。もう自分が飛んでいることさえ忘れそうなほどだった。そこに爽快感などかけらもない。

山の中を飛び回った。重機の騒音が体に響く。音が頼りにならないので視覚だけで探さなければならない。僕が雛を見つけたとき、そこにあったのは朝までの元気だった雛ではなかった。見るも無残になった残骸だ。

僕は高く鳴いた。鳴きながら飛び回った。僕は風に乗っている気もしなかった。

僕が巣に戻ったのはすでに日の落ちた夜中だった。いや、正確には巣に戻ったのではない。巣があったはずの場所に戻ったのだ。

そこに巣はなかった。もちろん雛もいない。僕は絶望に心を支配され、その場所から動くことができなかった。





気がついたとき私は人間になっていた。

心当たりがないわけではない。毎日毎日雛鳥のために遠くの山と巣を往復してえさをとり、最近はその雛を狙う鳥が飛びまわっている。私は思ったのだ。私が人間であれば雛にも毎日たくさんのえさが与えられる。他の鳥からも雛を守ることができる。私は人間になりたい。そう思ったのだ。

そして気がついたら私は人間になっていた。どうやらこの人間の巣は私の巣があるところらしく、私は雛の様子を見ようとした。

しかし下のほうから私を呼ぶ声があるではないか。私はなぜかその声に逆らうことができず、雛の様子を見る前に朝食をとることになった。

あらゆる知識が私の頭の中に存在した。その知識のおかげで私は人間のように振舞えた。どうやら人間は意思疎通をするために鳴くことが多いようだ。それに鳴き方も多種多様だ。それは頭と体が覚えていたので問題ない。

私は学校に登校することになった。

学校では勉強を強いられた。更なる知識を頭の中に詰め込むのはかなりの労力を必要とした。うまくいかないと不安になった。

それに他の人間たちと意思疎通が行えないといけないようだ。私は他の人間と適当に意見をあわせていた。とても神経を使う。しかし、頭がそれを強いる。

学校が終わると今度はすぐに塾へと向かった。

私は塾で前回の模試テストのことを責められた。責められて不安になった私は一生懸命勉強した。そうだ、私は試験に合格しなければならないのだ。いまはそのことだけ考えなければ。

塾が終わったとき、すでに日が暮れていて暗い道を電燈をたよりに歩いた。

家に帰ると母親が夕食を作って待っていた。とても空腹だった私はがつくように夕食を食べる。しかし夕食を食べている間も勉強の話がほとんどだった。いや、勉強の話ではないのかもしれない。他人と志望校とテストの話か。

夕食を食べ終わったあとも宿題と予習をやらないければならない。もうすでにくたくただったが、これ以上テストの点数を落とすわけにはいかない。

私は気力を振り絞って課題に取り組んだ。しかし、やけに外が五月蝿くて集中できない。私はしだいにイライラしてきた。これは鳥の鳴き声か?やかましい。

私はそれに耐えながら勉強を続けていったが、難しい問題に直面してして解けなくなってしまった。頭をフルに回転させようとしたが、うまくいかない。くそっ、五月蝿い。

私は窓を開け、鳥の巣をむしりとった。

そしてその中で鳴いていた雛を、殺した。






アトガキ

微妙に不本意だったのでやる気があったら書き直したい。