真っ赤な薔薇の儚い歌





赤い、赤い、真っ赤な薔薇が川のほとりに咲いていた。

しとり、しとりと濡れた薔薇はどんな花より美しいのです。

それは彼女がはじめて見る、夜の自生の薔薇でした。彼女の目には、どれほど綺麗に映ったのでしょう。

薔薇の絨毯には月の光がよく似合い、風の音も虫の声も聞こえません。静寂は薔薇の魅力をより良く魅せます。

もし、悲しい争いの中で真っ赤な血の海を見た方は、これに良く似ていると云うのでしょうか。いえ、そうは思えません。美しさは悲しさでは無いのですから。それは何より優しくて、それは誰もが共感して、それは最も素晴らしいことです。

彼女がなんとも美しい、その赤い花を見て言った言葉。それは予想もつかないものでしたよ。

まさにその花のように赤く美しい唇からは棘のような言葉が発せられました。

なんて気持ちが悪い、吐き気がする。

彼女は花が嫌いなのでしょうか。それとも彼女は赤が嫌いなのでしょうか。

誰もを恍惚とさせる花は、もっとも美しい演出の中で、一番輝いていました。それは確かです。

彼女は何が気に食わないのでしょう。赤いドレスを汚さないよう気をつけ、その場に座り込んでしまいました。

そうして、一本一本、薔薇を引きちぎっているのです。とても恐い顔で、一本一本をありったけの力で引きちぎっているのです。

彼女は果てしない数の薔薇を飽きもせずに引きちぎっていました。

やがて、彼女の手は薔薇のごとき赤に染まっていきました。薔薇を引きちぎるたびに苦痛の表情を浮かべるようになりました。

彼女の目には、涙が浮かび、黒くなって頬を伝う。

なぜ彼女はこんなことをするのでしょう。理由はわかりません。でも、なんらかの憤りだけは良くわかりました。

その夜、彼女はじっと座って薔薇をむしり続けていました。

棘で手がずたずたになっても、靴やドレスが汚れても、自らの分身のような美しさを破壊する様子はあまりに残酷でした。

それでも、月夜に照らされた二つの赤は、とても綺麗でした。






アトガキ

童話みたいに歌のような文章を書きたいと思った。予想以上の難しさでした。

あと薔薇ってどんな風に生えてるんだっけ?ちょっと調べたけどよくわからなかった。